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敗退のマルチピッチクライミング。(その②)

敗退の瑞牆山マルチピッチクライミング・・・。昨日の続きです~・・・。

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僕達はもうすでに真っ白な雲の中を登っていた。周りは何も見えず、
冷たい冷気が足下から吹き上げてくる雲の中にいた。そんな状況の
中でもNJさんのクライミングは集中力を増し、逆に研ぎ澄まされて
行くようだった・・・。最初だけはフォールしてオンサイトは成らずで
あったが、その後はゆっくりとしたムーブで確実にこなして行った
感じで、巨大なルーフを越えて行かれたのであった・・・。


トラッドのマルチピッチクライミングは、不確定要素が多いのだ・・・。
今回のような天候の変化やコンディションの悪化は、自然の中の行為
なので多少は享受しなければならないのだ・・・。そして、そんな中でも
自分のベストな選択をしながら上へ上へと続けて突き進んでいくのだ。
そこにはもちろんギリギリの危険もあるのだが、社会から隔絶された
この岩壁に居る間、クライマーという人種は、自分達の技術と経験の
限界の先に、僅かだがかけがえの無い「自由」を感じることが出来るの
だと思うのだ・・・。BCスキーヤーがパウダースノーの中で得る自由と
快楽と同じように・・・。


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僕達もまた大ルーフを何とかフォローで越えて、NJさんの後を追った。

一筋縄ではいかない日本のビッグウォールである瑞牆山マルチピッチの
ルートで僕たちは、高度感満点なシチュエーションの恐怖と、挑戦する
愉しさの狭間に居たのだった。そのどちらにも陥らないようにバランス
を取りながらホールドに手を伸ばしていくと、このギリギリ登れるという
絶妙な位置にホールドがある岩壁に挑戦することが出来る、大自然への
畏敬の念と、今自分たちのいる状況への感謝の気持ちが、水の中に滴り
落ちる墨汁のように僕たちの心の中にじんわりと滲んで広がっていくの
だった・・・。それはまるで、白い雲の中にいる僕達自身がそのまま意思を
持った墨汁ような感じなのだった・・・。


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6ピッチ目も、そのままNJさんのリードで進んでいった。このピッチも
複雑なチムニーのようなピッチで、半分より上は隣の「ベルジュエール」
というルートに重なってくの字のフレーク・クラックを登って行くのだ。
グレードが5.10bなので、NJさんにとっては朝メシ前な感じだった~。


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フォローで僕たちもNJさんの後に続いて登って行く・・・。グレードは5.10bなの
だが、やはり僕にとってクラックは、その難易度以上の難しさを感じてしまう
のであった。オマケにフォローだと、バックパックを担いでいるのでチムニー
だと岩の間に入れないので、よけいに難しいのだ。それでも、あともう2ピッチ
なので、ズルズルとしながらロープに頼って何とか越えていったのだった・・・。


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6ピッチ目のフレーク・クラックを登って行くと、辺りはもう真っ白と
いうか、暗くさえ感じてしまう程になってきてしまっていた・・・。

そして、この日のクライミングの中、ここまで僕は頭の中に靄が掛かった
ような答えの見つからないパズルのようなクライミングをしていたみたいな
感じなのだった・・・。未知のルートへの挑戦やただ単純にクライミング出来る
楽しさは感じていたのだが、なぜかスッキリしていなかった・・・。なぜか?と
いう答えや理由はまだ見つかっていない。でもこの想いや不注意で、この後
僕は決定的なミスをしてしまうのだった!!・・・。


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7ピッチ目の3rdの岩場の歩きを経て、最終8ピッチ目の取り付きまで
行く時には暗い濃霧の状態になってきていて、辺りは真っ白になって
しまっていた・・・。景色も見えず、目の前にあるハズの僕たちのゴール
である十一面岩の山頂も、何も見えなかった・・・。


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最終8ピッチ目は、約10m程の5.8のクラックルートだ・・・。これは
ベルジュエールのルートと同じルートになる。この最終ピッチを僕が
最後にリードさせて頂く事になったのだったが・・・・

この日の僕は、ここまで不甲斐ないクライミングしか出来ていなかった。
だからこの最後のピッチをスッキリと登って、自分の思いを自分自身で
晴らしたかったのかも知れない・・・。クラックでもグレードは5.8なので、
僕は自分で5.8では墜ちないだろうと思っていた。それが甘かった!・・・。
事故が起きる時は、大体そういうモノだと思う。この後僕は、大きく
フォールしてしまい、曖昧だった僕の心も一緒に岩壁に叩きのめされて、
左足を痛めてしまったのだった!!・・・。

せっかくここまで何とか3人で登ってきたのに、僕の一瞬の大きなミスで
十一面岩山頂に立てず、愚かな僕のせいで山頂を目の前にしてここで敗退
となってしまったのだった・・・・。


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難易度の高いルートで登れなかったら仕方が無い。でも、5.8ルートで
情けないフォールをして、他のメンバーに多大な迷惑を掛けてしまった。
そして、山頂まで登れなかったのは途方も無く悔しく、下りでも仲間に
途方も無い迷惑を掛けてしまって、悔恨の念しかなく、情けない事の極み
なのであった・・・。

帰り際、虚空の空を仰ぐと、それまで真っ白だった雲が一瞬だけ晴れて
瑞牆山の山頂や他の岩場が見えた・・・。この日集中力を欠いた愚かな僕を
嘲笑うかのように、そして自然の地形はあまりにも美しくて、情けない
僕を抱擁するかのようだった・・・。技術やメンタルを磨いて、躊躇の無い
信念と情熱を胸に、また戻って来いと言うコトなのだろうか・・・。瑞牆山
では、僕達はただのとてもちっぽけな存在なだけなのであった。


人生は、後戻り出来ない・・・。この敗退や痛めてしまった僕の左足首は、
僕の不注意の代償・・・。でも、その失敗や経験を次に活かして、さらに
高き空を目指し、また努力して前へ進むしかないのだ・・・。なので僕は
この失敗を反省しながら悔恨の日々を過ごし、またこれから岩や雪や、
山の自然にに受け入れられるように、そして認められるように、また
次の課題へと挑戦していきたいと思うのであった・・・。



by springbk2 | 2021-11-20 07:23 | アウトドア | Comments(0)